熱問題のターニングポイント
近年、電子機器を設計するうえで無視できないのが「熱問題」です。
しかし、この熱問題周辺を取り巻く環境をみてみると、その認識具合にはだいぶ温度差(まさに)があります。
自動車関連部品やパワー半導体の分野では、熱の問題は最もホット(まさに!)な課題です。
この分野では熱の課題検討抜きでは全く話が進まないといっても過言ではありません。
電子機器は最近ではほとんどのものが熱の問題を抱えています。
しばらく前(といっても15年くらい)は、さほど神経質にならずともよかったように思います。
例えば、ビデオデッキは当時まだテープでしたが、ファンのついたものなど存在しませんでした。
テレビもブラウン管でした。
電球や蛍光灯などの照明類も寿命の観点で熱に注意することなどありませんでした。
ゲーム機にファンが付き始めたのもこのくらいの時期と思います。
パソコンは普及し始めたところで、最初からファンが付いていることに違和感がない数少ない商品だったと思います。
ファンを付ける、というのは、今までファンなどなかった装置にとってみれば大きな方針転換です。
おそらく、「ファンが故障したらどうなる?」「ホコリを吸い込むのでトラブルにならないか」等々の議論があったと思われます。
ビデオやテレビにファンが付くのが当たり前になった今でも、
「ファンを採用するとその故障を考えなければならないので、装置として信頼性が落ちる」と、
ファンで冷却する方式の採用に難色を示す傾向が残っています。
ファンによる強制冷却方式は、ファンを用いない自然空冷方式と比較して、冷却能力については格段の性能アップが期待できます。
電子部品は10℃の温度上昇で寿命が半減します。
20℃の温度上昇では半分の半分で1/4になってしまいます。
このことを考えると、ファンを採用してその寿命を配慮しなければならなくなったとしても、冷却効果により装置全体の故障を減らすことができ、信頼性を向上させることができるのです。
つまり、ファンだけに注目せずに装置全体を見渡す広い視野が求められるようになってきたわけです。
それが、たぶん15年ほど前、2000年近辺だったのではないかと思うのです。
電子機器を開発するエンジニアとしては、「熱問題」を対症療法ではなく、本質的に理解して対策・解決する必要が出てきたターニングポイントだったのではないでしょうか。
丁度そのころの私は、メカエンジニアとして在籍していた測定器メーカーで、「熱問題」を開発企画段階から検討すべき課題として、事業部全体に認知してもらうよう奮闘していました。
当時の直属上司の指示で、「このままでは熱問題が元でシステム開発が立ち行かなくなる。お前何とかしろ。」との命を受けて奮闘していたのです。
開発していたのは水冷の大がかりなシステムでしたが、今振り返ってみると、世の中の流れとピタリと一致しており、当時の上司の先見の明に驚かされます。
この時の経験は私の人生の宝の一つです。
1997年ころから始まった当時の奮闘は、5年後の2002年ころから徐々に実を結び始め、新しい商品企画が立ち上がると「熱がヤバそうだからメカ呼んで来い」と、企画当初から熱問題が議論されるところまでたどり着くことができたのです。
開発される商品規模やターゲット市場によって、熱に対する対策の方法はさまざまだと思います。
時代に置いて行かれないように常にアンテナを張っておかなければなりませんね。
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